父が穏やかだ。
土曜日に空港から父のホームに行った時、父はけわしい表情で不安ばかり訴えていた。
それが父の険しい表情を見た最後だ。
日曜日以降、ずっと穏やかな父の顔には、微笑みが張り付いている。
つまり正常な父ではない、ということだ。
繰り返すが今年の祇園祭は前祭と後祭に分かれている。
これはつまり京都に住む人間には苦難が延々と続くということだ。
父を四条烏丸にある補聴器センターに連れて行きたかった。
今年1月に作った補聴器など、4つを調整してもらう必要がある。
何よりも父の気分転換のためにホームから連れ出したい。
だから午前中、一度四条烏丸に行って交通規制をチェックすることにした。
一旦父を連れて出たものの、交通規制のせいで補聴器センターに辿り着けないのは困る。
父を外出させるのは大変なのだ。
洋服を着替えるのも最近は身体が動きにくいので時間がかかる上、暑さに弱い父のために持って行くものが多い。
道中も父は黙っている。
補聴器センターに着く。
姉と二人で父を両脇から支えて駐車場からお店に入る。
終わってからの帰り道、ちょっと疲れていた父にアイスクリームでも買おうか、と聞いてみた。
『あんたらがほしいなら、食べてもええな。』と気遣う。
ホームに着いてベットに座ってアイスクリームを食べながら、父は『今日はありがとう』と言う。
『楽しかったなあ。』と。
う〜む、何かが正しくない。
父にとってなじみのお店に行くのはちょっとした気晴らしだったのだろう。
しかし、今までは外出するのが本当に本当に大変だった。
この穏やかさがこれから続くのだろうか。
それともこれは一過性のものなのか。
期待していいんですか?
ところで補聴器センターのそばには鉾が一基あった。
道の両脇の電柱には黄色い布がかぶせてある。