もっと英語で交渉できれば、うまくいったのではないだろうか、という出来事があった。
やはり母国語ではないのだから、こういう思いを時々する。
いや、定期的に気落ちする。
さて、昨日の続き。
白いBMW(5年落ち中古車)を買った日から憂鬱が始まった。
この車を買わせずにもっと地味な車にすれば良かった、と毎日ため息が出た。
一体何のためにこの車を買ったのか。
まともな人間を育てるためには、もっと地味な車を買うべきだったのではないか。
毎日毎日延々と堂々巡りをする。
次男は嬉々としてマニュアル車の運転の練習をする。
車高を低くする。
マフラーを2つにする。
その他私にはわからない所を改造する。
そのために次男はアルバイトを始めた。
エンジニアの事務所、アイスクリーム屋さん、ラクロスのコーチなどなどお給料は全て車に消えて行く。
車仲間も増えてどんどんネットワークが広がって行く。
が、車を改造するのは暴走族、という印象しかなかったので見ているだけで憂鬱だ。
次男の関心は車にしかなく、一日中車に関してリサーチをしている。
そこまで好きなことがあるのは幸せだ、と友人は言う。
しかしこの車は色々な問題を引き起こすのだ。
ある夜ガレージの外に停めていた車全体に、誰かがイヤらしい絵と文字を鍵を使って彫り込んだ(後に元カノと判明)。
車体だけが道に置いてあったわけだ。
タイヤが目的なのではない。
ホイールが目的なのだ。
これは高速道路を走っている時から目を付けられていて、あとをつけてきたプロが数分の隙を狙って盗んだのだろう、と警官に言われもっと憂鬱になる。
サンノゼから車で5時間ぐらいの所にある大学を卒業して、22歳の次男はサンノゼに帰って来た。
アメリカにはコミュニティカレッジ(短大)というものがある。
高校の成績が悪くてもコミュニティカレッジでいい成績を収めれば、4年制大学に3年生から編入できるのだ。
次男はその2年間で大人になっていた。
親を気遣い、家のことを進んでする。
ティーンエイジャー時代の、反抗的な態度が信じられないぐらいの成熟だった。
サンノゼではレンタカーの営業所に就職した。
ブートキャンプと呼ばれる会社だ。
朝7時から夕方7時までランチ休憩をする時間もない職場で12時間働く。
日曜日だけが休み。
『あんたはバカだからこんな仕事しかなかったんでしょ。』と罵倒する客にも耐えながら8ヶ月続けた。
アメリカにはこういう風に人を貶める人間がいるのだ。
レンタカーの営業所だ。
車が故障して修理工場に持って行ったあとの客が多い。
当然機嫌の悪い人もいる(空港の営業所は別。バケーションに行くハッピーな客が多い)。
が、ここで次男は6年間自分の車にいれこんだ成果を発揮する。
なにしろ車のことには詳しいのだ。
殆どの客は良い人だから、話しているうちに車の話題で盛り上がりどんどん仲良くなる。
コネが増えていく。
ここでコミュニケーションスキルを磨いていった次男は8ヶ月後に転職した。
今度は車には全く関係ない職場だ。
ここで1年1ヶ月仕事したあと、今年の5月にまた転職。
3つ目の職場だ。
シリコンバレーでは若い世代が次々と転職していく。
3ヶ月働いただけでよりよい条件を提示されて転職、そこでも5ヶ月働いたあと転職などという履歴書はざらにあるそうだ。
アメリカでも日本でも、職場でのコミュニケーションスキルが大きくものを言うのではないだろうか。
その点明るくおしゃべりな次男は、会社でもうまく人と付き合えるようだ。
本当にミセスSのおかげなのか、クラスの中で自信をつけていくことができて良かったと思う。
学習障害と言われるほど勉強のできなかった次男。
少しでも成績がよくなると、褒めまくったことも社交性を作ったのかもしれない。
なにしろ親としては褒めることしかできなかったのだから。
BMWを買ったことはいい結果も産んだ、と今は信じたい。
40歳を過ぎたら一番自分のしたいこと、つまり学校の先生になりたいのだそうだ。
そうなればいいなと思う。
お金が全てではない。
好きなことをして幸せになることを追求してほしい。
いい加減子離れするべきなのはわかっているが、長男のことはもっと心配だ。
現在の会社での待遇がとても悪い。
今年の夏には転職する、と宣言するのだが、その根拠はどこにあるのか。