2014年7月15日火曜日

そうめん

悩んだ末、朝10時からのわいわい広場に行くことにした。



父のホームで毎週火曜日催されるレクレーションクラスだ。



このところ父は行ってないらしい。



以前は何よりも楽しみにしていたのに。

庭は草ぼうぼう
でもヤブ蚊が多いので草取りできない



先週から抗不安剤を一つやめた。



父の不安症状が一番ひどかった去年飲み始めた、副作用の強い薬だ。



森先生は、父の不安症状パターンを学習して、少しずつ減らすようにしてください、と診察に付き添ったスタッフと看護師さんに指示していた。



これが数ヶ月前。



やめるとスタッフが父の不安症状に対処できないということで、服用は続けていた。

暑いがホームまで歩いた


先週遂に姉がこのままでは父は副作用が強過ぎて死んでしまう(副作用がキツい、長期間服用すると予後が悪い薬)、どうにか減らすようにしてみてください、と頼んだ。



家族は毎晩いつも通り通うし、いざと言う時にも駆けつける。



ということでやっと先週から減らされ始めた。



なのに昨日も一昨日も父は珍しいほど穏やかだった。



もしかしたら今日のわいわい広場も、私が付き添えば行くかもしれない。



やはり父はわいわいでも穏やかだった。



先生が運動しながら皆で夏の思い出という歌をうたいましょう、と歌い始めた。



父はカラオケが好きなのに、今のホームでは歌うチャンスがない。



いつかカラオケをしたいと言い続けていたのだ。



25人ほどの入居者が歌う中、父の歌声が大きく聞こえて来る。



自分が一番うまいと勘違いしている父は、この時ばかりと大きな声で歌っているのだ。



嬉しそうに歌っている父を見ていると胸がいっぱいになった。



家で看てあげられないという罪悪感はいつもあるのだ。



入居者、スタッフ、先生がいる広場で泣くわけにはいかない。



でも涙は止まらない。



部屋を出て自動販売機で飲み物を見ながら深呼吸をした。



よし、涙は止まった。



部屋に帰る。



途端にまた涙が出始める。

久しぶりに父は終始穏やか


先生が皆に話し始める。



「今朝テレビで見たんですけど、今世界中で外国人に一番人気のある観光地は京都なんだそうです。外国人が日本に来たら食べたい物は何だと思いますか。1番寿司、2番枝豆、次はなんでしょう。」



父が「そうめん!」と自信満々に言う。



先生が「そうめん、いいですねえ。夏はそうめんがおいしいですねえ。」と言う。



「3番目はお刺身なんですよ。じゃあ、4番は何だと思いますか。」



父が大きな声で「そうめん!」と言う。



先生が「Mさん、そうめんがお好きなんですねえ。」と笑う。



そうか、父はそうめんが食べたいのだろうな。



このホームの食べ物はまずいもんなあ、と考えるとかわいそうでまた涙が出る。



人生の黄昏においしいものも食べられない父。



やはり青梅慶友病院のような所に入居させてあげるべきなのだろうか。



無理だ。高過ぎる。これがジレンマ。



目立たないようにティッシュで涙を拭いているのに、そんな時に限って「今日はMさんの娘さんがなんとアメリカから来てらっしゃいます。色々お話を伺いましょう。アメリカで枝豆は人気あるんですか。えだまめ、と発音するんですか」と先生が私を見る。



皆が私を見る。



父は娘がアメリカにいるというのが自慢なのだ。



さぞかしアドレナリンがブンブン出ていることだろう。

両足をしばらく上げていられる父
こういうことができるのも久しぶり


瞬きを何度もして「はい、アメリカでも枝豆はどこのスーパーにもあって人気なんですよ。発音はイーダマァミーというようにするんですよ。」と色々とアメリカで人気の日本の食べ物の話をした。



イーダマァミーが多くの人にうける。



やはりわいわい広場に行って良かった。



父は嬉しかっただろう。



人気の食べ物は4番がラーメン、5番が天ぷらという話を先生が皆に披露する。



12時前に父のランチが始まったので、電車で帰ることにした。



帰り道スーパーでランチを買う。



ラーメンという言葉がインプットされたので、冷やし中華が食べたくなった。



税込み410円のスーパーのもので充分。



私が帰る時、父はホームで何か買ってここで食べたらどうか、食べたあともうちょっと一緒にいてほしい、と穏やかに言っていた。



「今日は時差ぼけで3時半に起きたし、朝ご飯も5時に食べたからもう帰ることにする。」と私が言うと、父はハハハと笑って手を挙げる。



こういう会話を父が死んだあと思い出し、後悔するんだろうなあと思うとまた泣けて来る。



明日はそうめんを持って行ってあげよう。

泣き泣き大メシは父譲り