父が信頼する針灸師の松本先生は、去年父がホームで『家族を呼んでください』とスタッフに訴えることが多かった時、唯一頼りになった人だ。
父の所に週に2度来てくれていた。
父は松本先生のことをダチと呼び、親し気に話していたものだ。
その松本先生がホームの近所に鍼灸院を開き、ホーム専属の針灸師を辞めてしまってからは、どうにか個人的に松本先生を雇えないか、と何度もホームに打診した。
が、ホームの返事はノーだった。
園長に掛け合ってやっと松本先生に来てもらえることになった。
今のところはボランティアとして、松本先生がホームに用事のある日曜日に父と話しにやってくるだけだ。
あとはもう一度ホームと交渉して、父の所に施術をしながら話しに来てもらえるようにしたい。
料金は家族が負担するのに、ホームはいい返事をくれない。
ボランティアとしてのみ許されているのが現状だ。
松本先生は父を見て、去年の状態よりいいんじゃないか、と言ってくれた。
去年は父自身がしんどい思いをしていただろう。
やはりこの先生と話すとホッとする。
父は先生のことを覚えていなかったが、先生には『覚えています』とちゃんと社交辞令を言ったらしい。
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マリー母のお誕生日のために帰っていた 次男とマリーをスタンフォードの電停まで送る マリー母にトイレットペーパーを 大量に持たされている二人 |
夕べ姉がホームにもう一度行ったら、父は寝ていた。
スタッフによれば一日この状態で寝ていた。
食事も摂っていない。
水分も殆ど摂っていない。
看護師と相談して様子を見ようということになっているということだ。
身体を動かすのをいやがる。
首が痛いというので、姉が父の頭や眼にさわっていたら、父は誰?と聞く。
『娘』と姉が言うと姉の手を探してさわって、感謝のサインをする。
『全てありがとう』と父が言うので、もうお迎えが来ているのか、と姉が冗談で聞くとそうでもないらしい。
姉が持って行った食べ物は全く食べなかったようだ。
アクエリアスだけ少し飲ませて帰る姉に、『ありがとう、気をつけて』と言う父。
姉から『もし胃瘻にしようということになったらどうするか』と相談するメールが来た。
胃瘻にして生きながらえることの問題をNHKで見たことがある。
必ずしもいいことではない。
QOLが良くない状態で延々と生かされることもある。
今の父の状態だと穏やかに弱っていき、死に至るのかもしれない。
それは決して苦しい死に方ではない、と聞いている。
が、まだあきらめきれない。
このまま父が死ぬのを手をこまねいて見ているわけにはいかない。
だからいざとなったら胃瘻にするべきなのだろうか。
勿論意識がはっきりしているのなら、胃瘻にはしてもらいたい。
が、殆どもうコミュニケーションも取れない、意識が混濁していている状態で胃瘻にしますか、と聞かれたらどうするか。
取りあえずは点滴などで栄養補給をしてもらいたい。
母が死んだ時は悲しかった。
薬害で38歳の時から寝たきりになった母がかわいそうだった。
が、父の死は母の時とは比べ物にならないほど受け入れられない。