その日斎場は混み合っていて、父の順番が来るまで少し待たされた。
斎場に行く車に乗る前に、父とは玄関でお別れをした。
お棺の中には父には似合わない蘭やバラをたくさん入れ、一番お気に入りだったシャツを着せて蓋を閉めた。
その時のことを思い出すと今でも涙が止まらないが、その1時間後の悲しみはそんなものではなかった。
火葬炉に入る前の父とのお別れ。
もう一度父のお棺の蓋を開けてさようならを言う。
本当に父は死んでいるのだろうか。
もう何も感じないのだろうか。
頬を撫でてみた。
父は氷のように冷たい。
でも父の頬が濡れているような気がする。
父は泣いているのだろうか。
まだ生きている、炉に入れないでくれ、と叫んでいるのではないだろうか。
炉に消えていく父のあとを追って行きたかった。
父を行かせてはいけない。
こんな理不尽なことをしていいわけがない。
どうにかこのまま父をここに置いておけないのだろうか。
もう父を見ることは一生ないのだ。
身の引きちぎられるような悲しみというのはこういうことを言うのだろう。
父の骨は驚くほど大きかった。
特に骨盤や足、そして膝蓋骨は本当にあのやせ細った父のものなのだろうか、と信じられないほど立派だ。
どうやってこんなに大きな骨があの小さな体に入っていたのだろうか。
姉と二人で感嘆しながら少しだけ明るい気持ちになった。
母の時と同じで、子供にちょっとしたサプライズを残してくれる親。
それは私たちにほんの少しの慰みを与えてくれる。
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