わいわい広場の日だ。
今回の滞在では父が問題を起こすでもなく、補聴器の混乱もなく、穏やかな日々が続いた。
父が唯一楽しみにしている、わいわい広場に車椅子を押して行った。
2年前の父は車椅子どころか、スタスタと早足で歩いて行っていたのだ。
今は気力も随分減退しているし、以前のように自分が一番、というような態度も取らない。
以前は45分のイベントの間にも、父は『おーい、ちょっと来てくれぇ。』とまるで殿様のように私を偉そうな態度で呼びつけていた。
なのに、今は大人しくしている。
呼びつけられていた時は憎たらしいなあ、と感じていたが、今はそんな父を見てかわいそうになる。
父に対してはいつもいつも同じ感情を持つ。
父を部屋に連れて帰ったあと30分ほど話して、11時40分の電車で京都駅に出ることにした。
とにかく最近は、「出かけたらただでは帰るもんか」という気持ちがいつもある。
だから今日は、レールパスを使って新大阪までご飯を食べに行くことにした。
新大阪には乗り換えで行ったことがあるだけで、駅構内は全くわからない。
どうも京都と違って、新大阪は大都会のようだ。
そして駅構内のレストランもものすごい数だ。
やっと比較的すいているお店を発見。
少し待っただけで席に案内されたのは、「蕎麦弦」というお店。
すいているのにめちゃくちゃうまい!
おいしい、というよりもうまい!
そして900円というすばらしいコスパ。
このランチを食べながら、わいわい広場のことを思い出した。
今日は30人ぐらい参加していて大盛況だった。
半分は入居者、あとの半分はデイサービスに来ている人たちだと思う。
デイの人たちは70代ぐらいだろうか。
中に一人素敵な女性がいた。
小柄で洋服もちょっとおしゃれで上品な感じ。
ホームでも高齢者の男女に恋が生まれるらしいが、モテるのはああいう女性なんだろうなあと思う。
自分のつらい恋を思い出した。
高2の時Yぶき君という一年上の男の子がいた。
このYぶき君は物静かな美青年で、多くの女の子たちがこの人に憧れていた。
Yぶき君が教室から出て来ると、廊下から彼を見ていた女の子たちがサーッとYぶき君のためにわきに寄って道を作る。
太った私なんかYぶき君の目に留まるはずもない、と思いながらも一縷の望みは持ってしまう。
Yぶき君がいるから、毎朝学校に行くのが楽しみだった。
だが、その楽しみは秋の文化祭の日に、終わりを迎えた。
写真部のYぶき君が発表した写真を見て、私は全てを理解した。
写真は同級生Sちゃんのポートレートだった。
そしてその写真の下には題名があった。
『美少女』。
Sちゃんは身長が145センチぐらいで、私より20センチは低い。
つまり、165センチ以上あるデカい私に、チャンスは皆無ということである。
Yぶき君は、145センチの小さな美少女Sちゃんが好きだったのだ。
そうなのだ。
男性が好きなのは、Sちゃんのような小柄なかわいい女性だ(偏見)。
いずれホームに入居した私は、またがっかりするかもしれない。
第二のYぶき君、いやYぶき老人は小柄な美老女にしか興味ないのだ。