2013年6月28日金曜日

歌の会

先週歌の会に参加した父は、久しぶりに歌うことができて嬉しそうだった。何人ものボランティアで毎週催されている歌の広場は、かなりしっかりと構成されたものだ。先生は色々なアイデアを盛り込んで、高齢者たちが楽しめる会に作り上げてくれている。

このホームには囲碁教室、色鉛筆教室、書道教室、ピアノコンサートなどなど毎日のようにイベントが開催されている。今の所父はわいわい広場を楽しみにして、火曜日を心待ちにしている。金曜日の歌の会にもこれから毎週行くようにしてほしい。アルツハイマー患者には何曜日には何をする、というような生活のリズムがあることが大事らしい。


父はカラオケが好きだ。父にとってカラオケのような娯楽は、最も受け入れることのできない類いのものだとずっと思っていた。ところが去年肺炎で入院するまで通っていた、京都某老人ホームでカラオケにはまってしまった父は、毎週金曜日のカラオケが楽しみだと言い始めたのだ。皆がマイクを取り合って歌うと楽しそうに語る。そして「実はワシが一番うまい。」と言うのだ。そうなのか、自分の父親の知らない一面にびっくりする。そういえば、父の声は若いと皆がびっくりする。声も顔もツヤツヤしている、とよく言われる。カラオケもさぞかし朗々と歌うのだろう。

肺炎で入院したあとは、老人保健施設を転々とした。とは言っても2軒だが。2軒目の老健では毎週火曜日歌の会があって、父はそれを何よりも楽しみにしていた。やはり自分が一番うまい、自分の歌を聴いた入居者のうち一人が感動で涙を流しながら、礼を言いに来た、ということだった。父はその時のことを思い出しては何度も涙ぐむ。

そこまで父が楽しんでいるのなら、一度は見に行ってあげるべきだろう。ある日歌の会に行ってみた。入居者が30人ぐらい集っている。先生がマイクを持って廻って行く。父の番が来て、歌い始めた。びっくりした。

父はヘタクソだったのだ。耳が遠いのでCD音楽も聴こえない。だからテンポがずれる。歌っているうちにどんどんずれが拡がって行く。そして浪々とは歌っているが、それは独りよがりな歌い方で自分に酔っているだけだった。皆が注目しているだろう、自分はこんなにうまいのだから、と思っているのが目に見える。そんな父を見て、恥ずかしいやらおかしいやら。

着物の女性の民謡は良かった
先週、歌の会のあと疲れ切った父は夕食後また幻覚を起こす薬をしっかり飲んで、その日の夜から自室に篭城したのだ。それはともかく、父のホームから夕方帰ろうとしたら、歌の会で民謡を歌った女性に玄関で会った。「ありがとうございました。本当にすばらしかったです。父も感動していました。」と挨拶した。「お父さんは楽しんでおられましたが、どんな歌がお好きなんですか。」と聞かれた。「王将や湯島の白梅が好きなようです。」と応えると、それでは来週は是非その曲も盛り込みましょう、と先生と相談してくれた。

そして今日待ちに待った歌の会があった。父は1週間楽しみにしていた。1時45分に行って始まりを待つ。父は『今日は歌がうたえる』とかなりドーパミンが出ていたようだが、結局フルート演奏で終わってしまった。何人かの人はフルートに合わせてうたっていたようだが、父にはよく聴こえなかったらしく、あっという間に終わってしまった。


高齢者なんだからもっとしっかり、これからうたいますよ、などのゆっくりとそしてはっきりした指導をしてくれないと、ついていけないよなあ、とちょっと不満な気持ちがわいてきた。が、これは子供が学校のお遊戯などで、役付けされない時に持つ親の不満と同じようなものだな、と思うとおかしくなった。


それにしても、父が湯島の白梅を調子っぱずれに歌っているのを聞かずにすんだのは、かわいそうではあったが、ホッとしたのも事実。実は。