2013年6月25日火曜日

玉入れ

昨日の父の様子では、水曜日の森先生の診察に連れて行くのは無理かもしれない。だから行けない時のために、ホームで血液検査だけはしておいてもらうことにした。もし父にまだ不安感があるとすると、ホームの看護師さんも信用しないかもしれない。9時に家族立ち会いの元検査をお願いします、と頼んでおいた。

8時45分に行ってみると園長さんがもう来ていて、父とリビングルームでおしゃべりをしてくれていた。園長さんが責任を感じているのがわかる。父が篭城した前日に園長さんの目の前で、父は薬のせいでせん妄状態になっているのでは?とホームの看護師さんに聞いた。元看護師だった園長さんはその時ピンと来たと翌日姉に言ったそうだ。その時ただちに薬の服用をやめるよう指示を出していてくれれば、あの晩の嵐のような数時間はなかっただろうに。



父はにこやかに話しているが、どうも余り元気がないようにも見える。そのうちホームの看護師さんが来て血液検査をしてくれた。父は「恐れ入ります。」とていねいにお礼を言っている。血液検査のために自ら空腹でいたい、と朝食は待ってもらっていたそうだ。食事を終えて、次は歯医者さんの診察を待つ。

毎週火曜日は10時からわいわい広場という集まりがあるのだが、これは父の一番の楽しみでもある。何故なら優越感がくすぐられる集まりだからだ。誰よりも身体機能が残っていて、知識もまだまだある父は自分が集まりの中で一番、と自負している。歯医者さんも10時からなので、父は歯医者さんのあとものすごい速さでエレベーターに乗り込んだ。すぐ1階に行ってわいわいに参加したいのだ。

会場に行くと玉入れが始まる前の準備の遊びをしていた。父のテンションがどんどん上がって来たのが見える。いよいよ始まった。父の席は籠から一番遠い。玉を投げ始める父。その肩はイチロー高齢者版と言えよう。2チームに分かれているので、境界に衝立てが置いてあるのだが、父の投げる玉は衝立ての上を通り過ぎて、相手チームの頭の上をものすごいスピードで飛び抜ける。

一番手前が父。赤い玉がビュンビュンと投げられる
しかし終了後数えてみると、父のチームの籠には5個しか入っていなかった。相手チームの籠には30個入っている。父は自分のチームの5個は全て自分が投げた玉だと主張する。とにかく負けるのがいやなのだ。

父のチームの他の面々は重症入居者が多いので、父が一番元気だと判断したスタッフが父に玉を袋ごと渡す。その中には玉が30個ぐらい入っている。父は大喜び。間断なく投げ続ける。その姿はとても昨日のへとへと姿だった父と同一人物とは思えない。余りの興奮に足も床についていない。


さて、玉入れのあとは指を使って『かいぐりかいぐり』をする。両手の人差し指を互いに突きつけ合って、糸巻きのように廻す遊びだが、段々と速度を速くしましょう、と先生が言う。他の入居者たちがおっとりと皆ニコニコしながら指を廻しているのに、父はハミングバードがはばたくように超高速で動かす。まるでブンブンと音が聞こえてきそうなほど、必死で動かしている。とにかく誰よりも負けたくないのだ。そして尊敬する先生に自分を印象づけたいのだ。

最後は先生とのじゃんけん遊びだ。先生と入居者全員がじゃんけんをして、自分が何度先生に勝ったか数えてくださいね、と言われた父は真剣な顔をしている。他の入居者が「あ〜、負けた。」と笑いながら言っているのに、父だけは負けた途端にムッとして黙っている。ここまで成長していない89歳がいるだろうか。

それにしても他の入居者たちは扱いやすそうな人ばかりだ。その中で父は突出して自分勝手で、気難しそうに見える。こんな父が、集団生活の中で良好な人間関係を築いて行くのはむずかしいだろう。

11時に集まりが終わったので、父を部屋に連れて帰って午後のお風呂の準備だけをして、帰ることにした。帰るよ、と言うと「はいはい、ありがとう。気をつけて帰りなさいよ。」と明るい。夕方姉が仕事の帰りに寄る予定だが、昨日よりも父はずっと元気そうだから大丈夫だろう。

隣接したJR駅から電車に乗って帰った。暑い日だったのでこのまま歩いて家に帰るのはつらい。駅直結のイトーヨーカドーでちょっと休んで帰ることにした。京都でも田舎の部類に入るこの辺りにはしゃれたカフェなどない。スターバックス、ドトール、何もない。かろうじてコンビニはあるが。


フードコートでかき氷を食べることにした。苺ミルク。お昼時で高齢者が多い。まあ人の事を言えた義理ではないが。暗い色の洋服を着た人たちが、ラーメンやお好み焼きなどを食べている。あ〜あ、やっぱりこの辺りは京都でも田舎だなあ、と気分が暗くなりため息が出る。

し・・しかし、びっくりするようなものを発見。どうしてここに?と目が点になる。

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