夫は所得の明細、銀行の明細などは提出しないと言っている。この家を担保にしてローンを借りるのに、それは必要ないと思うらしい。とにかく少しでも個人情報を提出するのはいやなのだろう。が、万が一どうしても提出が義務づけられている場合を考えて、一応全て揃える。
書類を掘り起こしている |
サンフランシスコに移ると毎月の支出が大きく増える。そのことを考えると怖い。その上物件がない。物件が出るとキャッシュを持った人たちの競争になる。それも段々気持ちが萎えて来た理由だ。なにしろロシア、中国、インドからの投資家がどんどん不動産を購入しているので、地価は高騰する一方だ。
SFオペラハウス |
夜のイベントに電車で行くのは億劫だ。友人も皆サンフランシスコ市内での運転がいやなので、一緒に行けない。様々な問題を全てクリアして一緒に行ける友人Mは、イベントの好みが全く違う。夫と行っても楽しくない。
SOMAに住んでいたら、一人で行くのも可能だなあと思う。
サンフランシスコのユニオンスクエア |
行ったのはやはりライオンキング。ディズニーの映画で見ていたが、人間が動物の格好をしてあの映画を再現するなんて、もしかしたらとてつもなくバカバカしいのではないか、と思った。が、10年以上チケットが完売し続けている舞台だ。何か魅力があるのだろう。
舞台は宿泊していたホテルのすぐ裏にあった。チケットの金額に少しクヨクヨしながら劇場まで歩いて行った。それもギリギリでとったチケットなので、3人バラバラの席だ。
劇場が暗くなって舞台が始まった時出て来たのは、アフリカの民族衣装を着た背の低い女性だ。杖を持った、そのちょっと道化師のような女性 (Tshida Manye) は、右手を振り上げた途端歌い始めた。その時の感動は一生忘れられないだろう。
これがTshida Manye |
この世にこんな声を持った人がいる。この世にこんな歌唱力を持った人がいる。この世にこんな表現力を持った人がいる。それは今まで生きてきた中で一番大きな感動だった。この人の声は聞いたことのないような『音質』で、『この世にはこんな声が存在するんですよ、聞いた事なかったでしょ』と攻め続けて来る。
それからの2時間はめくるめく感動の中で溺れそうだった。恋してしまった心臓が入っている胸の中は、嵐が吹き荒れているようだ。この人が好き!この人が好き!と脳髄が叫んでいる。もうすぐ愛する人と別れないといけない、という悲壮感も入り交じっている。しかし、こんな気持ちになったのは自分だけ?もしかして姉と夫にとっては子供だまし?
劇場が明るくなって3人が顔を合わせた時に、3人とも同じ気持ちを共有していたのがわかった。姉も夫も顔が真っ赤になっている。3人がうわ言を繰り返す。基本的にはそれぞれ『すごい。信じられない。あの声は何なのだ。すばらしい構成。感動した。』というような言葉を言っている。夢遊病患者のようにホテルに歩いて帰った。3人共殆どしゃべらない。耳の中でこだまするあの声を失いたくないからだ。
泊まっていたWホテル |
そして、麻薬中毒の3人はその半年後ニューヨークに戻って行ったのだ。
続く。