2013年9月29日日曜日

哀愁

久しぶりに楽しいことをしよう、と朝から四条河原町の高島屋に行った。とにかく京都は小さな街で、デパートは3軒しかない。京都駅にある伊勢丹、四条河原町にある高島屋、そして四条烏丸にある大丸。一番人気は伊勢丹。次が高島屋。大丸は比較的閑散としている。

四条に行く途中で
秋祭りをしていた
靴売り場で父の上履きを探した。が、サイズがない。仕方ないので他の所で探すことにして洋服を見に行く。日本に来るとコートを見に行きたくなる。カリフォルニアではコートを着る機会というのは余りない。だから、コートやブーツは日本の方が充実している。Max Maraでコートを試着したあと、7階に上がり『田ごと』で昼食。

田ごとのランチ
食べ過ぎか?
その後帰宅して1時間休憩したあとホームに行く。父は暑くてどうにもならん、とソックスを脱いでアイスノンの上に足を置き、うちわであおいでいた。エアコンは25度に設定してある。が、分厚いシャツを着ている。

とにかくすることがないので、暑い、寒い、鼻水が出る、風邪ではないか、熱はないか、と不安をどんどんつのらせていく。しかもそれは認知症のために日々エスカレートしていく。他の話題で父の注意をそらせるしかない。デパートで買っておいた穴子巻きなどを食べながら、孫たちの話をしているうちに表情が穏やかになっていく。

穴子寿司などの夕食
その間姉は近所の商店街で上履きを探していた。姉が父のサイズと思って買って来た上履きを持って部屋に入って来る。が、小さい。また、上履きを持って商店街に引き返す。30分後に少し大きなサイズに交換したものを持って戻って来た時、ちょうど看護師のUさんが入って来た。

父の隣に座る。「お好きな映画でしたけど、題名は何でしたっけ?」と聞くが父は覚えていない。昨日のカンファレンスでこれからのホームの取り組みの一つとして、父の好きな映画やテレビ番組をリビングルームで観るようにする、というのがあった。そのための質問だろう。

ではあらすじは?と聞くと父が語りだす。『結婚を約束している恋人同士がいる。男の方がある日戦争に招集される。女はある日恋人が戦死したと聞く。絶望と貧しさのために女は身をやつす(どうも娼婦になったということらしいが、父ははっきりと娼婦という言葉が言えない)。実は男は戦死していなかった。二人は再会するが女の方は自分を恥じて橋から身投げして自殺する。』

父はあらすじを話しながら泣く。ティッシュで涙を拭きながら、「余りにも悲しい映画なんです。もう思い出すだけで苦しいです。」と言う。男の方の名前は思い出せないが、女はヴィヴィアン・リーだと父が言う。「しかし、アメリカ映画は本当に演技がうまいですね。いやあ、洋画は当時よく観ましたが演技に圧倒されました。」と繰り返す。

その場で調べるとこの映画の題名は『哀愁』だった。そういえば、母がこの映画を父と一緒に観たとよく言っていた。

つまり、この映画を見せるのは余りにも酷ということだ。結局水戸黄門などの、あらすじが簡単で父の好きなテレビ番組見せましょう、と言うことになった。それをリビングルームで観ることができれば、少しは夜の時間が寂しくないのではないだろうか。

父が思い出せなかった男優の名は
ロバート・テイラーでした

次のプロジェクトは、当時の洋画のあらすじや俳優の名前を調べて、父にそのことを思い出させること。確か母と観た映画の題名に、『キリマンジャロの雪』というのがあった。エンパイア・ステート・ビルディングで再会を約束する恋人たちの映画『めぐり逢い』は観たのだろうか。母と観たのか。両親の好きな俳優や女優は誰だったのか。

父がこのホームに入ってからは、こうして毎日数時間話すことで父、そして母のことを日々学習している。