ちょうど園長さんとエレベーターの所で会ったので、一緒
に父の部屋に行くと、父はベットに入って座っていた。
お弁当を食べる間もずっとその不安を言い募る。それは父の勘違い、前立腺ガンは去年検査をして、お医者さんに心配ありません、と太鼓判を押されたでしょ?と言うと、そうか、思い出したそうだった、ああ、良かった、と少しホッとしたような表情になる。
銀座のデパートの話をしても父は数秒後には、ガンかと思った、今日一日不安だった、と繰り返す。2ヶ月前の父に比べると明らかに認知症は進んでいる。なにしろ目つきが違う。歩行もかなりヨチヨチ状態でおぼつかない。伸びたヒゲが老人っぽい印象をもっと強めている。
電動ひげ剃りを渡してひげを剃らせた。その間も同じことを何度も何度も繰り返す。どんなに話をそらせようとしても、すぐ前立腺ガンの不安にもどってくる。スタッフが部屋に入って来たので説明して、不安がったら大丈夫と安心させてください、と頼んで帰ることにした。
7月の父とは明らかに違うが、一番気になったのは一切の笑顔がないことだ。幻覚を抑える薬のせいで無表情になってきているのだろう。機知に富んだ会話ができていた父は、これからゾンビーのようになってしまうのか。
これから1ヶ月間毎日通ってできるだけ父の前頭葉を刺激したい。さて、どこまで父は活性化するのだろうか。
納得してもすぐ忘れてしまう父のために 『ガンの心配はありません』と紙に書いてテーブルの上に置いて来た |
これから1ヶ月間毎日通ってできるだけ父の前頭葉を刺激したい。さて、どこまで父は活性化するのだろうか。