2013年5月24日金曜日

連鎖

アメリカではなんでも返品できる。友人はクロワッサン6個入り袋を買って、おいしくなかったから、と5個残った袋をお店に返品したそうだ。さすがにそれはちょっと・・・と思うが、まあとにかく何でも返品できると言える。


デパートで洋服を試着する。どうしようかなあ、と迷う。店員さんは「持って帰りなさい。帰って他の洋服と合わせてみて考えたら?それでやっぱりダメと思ったら、返品したらいいから。」と言う。持って帰りなさいと言われたからといって、別にただではない。勿論お金は払う。

例えばラグにしても然り。家に持って帰って敷いてみなさい。そうすれば他の家具と合うかどうかわかるでしょ?気に入らなかったら返せばいいから、と言われる。持って帰る。確かに家に置いてみると合わなくて、一度返品したことがある。

洋服にいたっては買っては返し、返金で次にまた買うということもよくある。キャッチ&リリースだ。お店によっては返品の期限がない所も結構ある。前述のクロワッサンの友人は、買って20年以上家に置いておいた電気器具を返したことがあるそうだ。

さて、フローリング。今工事を待っている。今回注文したのは複合フローリングと呼ばれるもので、無垢の木ではない。我が家はコンクリートの床なので、無垢の木は使えない。無垢の木は板の上にしか敷けないのだ。複合フローリングというのは、表面に突き板と呼ばれる薄く削った天然木が張ってある。それを糊でコンクリートにつける。この突き板は1〜3㍉の厚さがあり、厚さによって値段が決まる。1㍉未満の板では質感が落ちる。3㍉もあると高級感がぐっと増す。


しかし注文した木の色はあれで良かったか、木と木の間の溝が気になるのではないか、と色々心配になってきた。それでお店に行ってみた。違うものにするかもしれない、という前提で。

ちょうど箱が届いていたので一つ開けて見せてもらう。ショック。安っぽい。樹脂シートフローリングと見た目が変わらないようにも思える。樹脂シートには本物の木は一切使われてない。木目が印刷されたいわゆるビニールだ。最近はかなり進化していて、ちょっと見ただけでは天然木か樹脂かわからないので、樹脂シートを選ぶ人も多いそうだ。

しかし、天然ではないから木目が余りにもきれいに揃っている。よく見るとやはり本物の木ではないとわかる。それにやはり質感が違う。樹脂の数倍の金額を払うのなら、もっと高級感のあるものを期待していた。

樹脂シートフローリング

複合フローリング

無垢フローリング

そのことを営業マンに言った。もうちょっといいのはありませんか、と。色々見せてもらったが無垢の木でない限り多かれ少なかれ不満はある。どれも似たり寄ったりだ。

100%満足じゃないなら他のに変更することはできる、と営業マンは言ってくれるが、余りにもたくさんのフローリングを見たあとでは何が何かわからない。結局変更もなくすっきりしない気分で家に帰った。洋服や電気製品と違い、家の改装は工事が終わって気に入らないと思っても、返すことができない。これがどんどん不安になる原因だ。取り返しがつかない、という不安。いや、取り返しはつく。でも大変な金額を無駄にすることになる。

床に合わせたキャビネットの色は明るい
とにかく、このフローリングを選んでしまったのだから、楽しむしかない。工事がすんだら次はキャビネットを新しくしないといけない。今のキャビネットは薄い色のフローリングに合わせて選んだものだから、濃い色には合わない。今度はキャビネットの業者を探す。

Yelpというサイトがあり、近辺のお店や業者を評価するサイトだ。このサイトができてから、小さなお店は宣伝をしなくても良くなったそうだ。口コミでどんどん客が増えるからだ。このYelpで一番人気のキャビネットメーカーに行ってみた。サンノゼ空港のそばだ。



キャビネットは今塗られているニスを落として、新しくペンキを塗ってもらえばいいと思っていた。サイトに出ている料金表で計算してみた。どうにか払えそうだ。中に入るとキャビネットのサンプルがたくさんある。う〜ん、どれも気に入らない。こんなものなのか、とがっかりする。


出て来たオーナーに我がキッチンの写真を見せる。ふむ、これはキャビネットの扉のふち部分は無垢の木だが、真ん中部分は合板ですね、とすぐ診断が出る。え?そんなことはないでしょう、と思ったがやはり合板だった。無垢の木の扉はこんな感じですよ、と出して来てくれた扉に感動する。イメージ通りの色と質感。これはピューターという色。錫色ということだ。

グレーがかった白、ピューター

色はその家に応じて微妙に変化させられるということ。ただ、その前に換気扇、冷蔵庫、オーブン、電子レンジを全て新しいものに替えたいので、まずはそれらを選んでキッチンに取り付けてもらわないといけない。しかし、その4つの合計金額は大変なものだ。

オーナーは誠実そうな人で、時間をかけて少しずつ改装していったらいいんじゃないですか?と言う。改装というものは一旦始めると、ripple effect (連鎖反応)で次々にプロジェクトがふくらんでいく、それを一度にするのは大変ですよ、と。勿論だ。

キャビネットの見積もりをしてもらうには、実際に来て実物を見てもらわないといけない。大体いくらぐらいになりそうですか、と写真を見せると、大まかな見積もりは予想の5倍の金額だった。しかし、いいものを見るうちに、ペンキを塗っただけのものは安っぽく見え始めた。アメリカではKitchen sells the house.と言われる。つまり家が売れるかどうかはキッチンで決まる、ということだ。投資の価値はある。何よりもこれからまだ数年はここで生活するだろうし、その間毎日ワクワクしたい。

ずっとキッチンの扉を見て感動していたいが、そろそろ次男を空港に迎えに行かないといけない。金額にショックを受けながらも、新しいキッチンへの期待に胸をふくらませながらお店を出た。

さて、久しぶりに家で落ち着いて夕食を食べる次男のために、餃子、焼き肉、海老のサラダと切り干し大根を作った。


でもなあ。新しいキッチンになったら汚れるのがいやなので、使わんだろうな。

ドリームキッチン