2013年4月15日月曜日

3ヶ月ぶりの日本

土曜日の夜帰国した。やはりカリフォルニアから日本に来ると周囲の色が変わる。大きな青い空から小さなグレーの空に変わる。しかし、その色は日本古来の建築や観音像などを生み出した文化の色でもある。往復するたびに感じる。

その夜はゆっくり休んで、翌日の日曜日の朝はまず四条河原町にあるデパート藤井大丸に姉と行った。ここの地下の食品売り場の魚や果物はおいしい。父に好物の鰻を買う。お昼ご飯をレストランで食べたあと、父が今居住している特別養護老人ホームに向かう。

四条からの帰り道五条大橋を渡る時、車の中から鴨川辺りの写真を撮った。桜がまだ残っていて美しい。



父のホームはJR駅に隣接している利便性と、スタッフのケアや施設の方針の良さで大変な人気があり、待機人数は数百人と言われていた。ここに父が入居できたのは本当に幸運だった。



父の部屋の窓の外は桜が咲き、電車のホームが見える。対面方向の通過待ちで停まった電車の中の人を見ることもできる。ボーッと窓の外を見ているだけで楽しい部屋だ。

近くには乃木神社と御香宮神社もあり、ブラブラと散歩して行くこともできる。しかし、父は最近外出が億劫になって出かけない。

1時半頃ホームに行くと父はリビングルームに他の男性入居者と座っている。この男性衣笠さん(仮名)と父はどうも最近うまくいっていない。和やかではない雰囲気を見てドキッとする。職員に父が何か訴えている。黙ってその様子をしばらく見てみた。

父の一番の問題は超難聴であること。どんな補聴器をつけても意志の疎通はかなりむずかしい。衣笠さんは最近父と同じ部屋に入居してきた。同じ部屋と言っても4人部屋は障子で区切られている。個室のようでありながら人の気配を感じることができるデザインにはいつも感心する。
衣笠さんは視力が弱く、光にも敏感だ。父は宵っ張りで夜遅くまで電気をつけている。衣笠さんが父に夜消灯してください、と頼んだ。それが聞こえない父に、衣笠さんの声は次第に大きくなった。父はそれが文句を言われていると感じたらしい。


父の部屋から光が少しでも漏れないように、と障子上の開口部にすぐ遮光カーテンをつけた。その後父は衣笠さんに謝まった。しかし、衣笠さんの返答が聞こえなかった父は、その謝罪を受け入れてもらえなかった、と勘違いした。そこからどうも二人の関係はぎくしゃくし始めたらしい。

昨日はちょうどスタッフが二人の言い分を聞いている場面だったのだ。父は衣笠さんと仲良くしたかったのに、どうも嫌われている。このホーム以上のホームがない、ということはわかっています。だから、部屋を移動したいんです。替えてください、と訴えている。衣笠さんはそんなことはありません、仲良くしたいんです、と答えている。その衣笠さんの声は父には聞こえない。聞こえないのでやっぱり嫌われている、と一層頑になる。

その様子を見ていると無力感が押し寄せて来る。ああ、せっかく慣れて来たホームで問題が起きた。父が衣笠さんとスタッフに頑固に自分の思いを主張し続けている間、姉と私は他のスタッフと話し合う。何か問題が発生する。それが解決したと思うと新たな問題が出て来る。その繰り返しに脱力してしまう。

衣笠さんは入居したばかり。父は同室の佐野さん(仮名)と仲良くしている。父と佐野さんは英語が少しできる。二人が英語を使いながら仲良くしゃべっているところに衣笠さんは入って行きたい。

一体どうすれば父を納得させることができるのか、と途方に暮れたその時、父と衣笠さんが和解し始めた。雰囲気が和やかになってきている。父が衣笠さんと握手をして手を握って二人で涙を浮かべている。


そこに車椅子に乗った佐野さんが来た。佐野さんは父を見て「ディアフレンド!」と呼びかける。佐野さんは戦争中フィリピンで経理を担当していた。父は台湾で経理を担当していた。二人とも少し英語ができる。こういう共通点が多く一番仲良くしている。

衣笠さんは父と佐野さんが余りに仲良しなので、そこに入って行くことに気後れしていたようだ。英語がわからないことも二人の間に入りにくくしていた原因の一つ。

3人がテーブルを一緒に囲みお互いに握手し始める。

ほっとした。取りあえず今日は一件落着したようだ。これで次にまた問題が出て来るまえは一息つける。

父を気分転換にスーパーに行こうと誘う。以前は出かけるのが何よりも好きだった父は、ここ3年億劫がるようになった。が、この日父は夏用の上履きを買いたいということで同意する。


車の中で父に衣笠さんのことを説明した。衣笠さんは視力が弱いので、光に敏感であること。新しく入ったばかりで、父と佐野さんが仲良く英語を使っているのを見ると、自分は英語がわからない、と仲間に入りたくても入れない。でも仲良くしたいということだから、父の方から手を差し伸べてあげてほしい。と、どうにか父の琴線に触れるように話す。

父はそうか、ちゃんと聞いている。誤解さえ完全に解ければ父も仲良くできるはずだ。これでホームはまた居心地のいいものになるだろうか、と園児を持つ母親のような気持ちになる。どうにか園で皆と仲良く楽しく過ごしてほしい。

スーパーで上履きを買ったあと、部屋でお茶を飲みかるかん饅頭を食べてくつろいだ様子だ。また明日来るね、と別れを告げて帰る事にした。

こんな時、少し気持ちを建て直してからでないと家に帰りたくなくない。何か楽しいことをしたい。生協でゴミ袋や父のおやつを買ったあと、大手筋にあるあられのお店に行く。このお店には奥の方にカウンターがあり、買った和菓子やあられを食べることができる。お茶やコーヒーもある。カウンターは大きな窓に面している。外の景色は桜並木と三石舟と呼ばれる小さな舟があり、満開の頃はさぞ混み合っていたんだろうな、と思う。坂本龍馬の像もある。







川縁にもちょっと降りてみる。よし、気分転換できた。明日またホームで問題があっても、どうにか対処できそうなので帰宅する。

勿論帰って最初に調べるのはジャイアンツの試合結果。今日はシカゴでカブスと3試合の3試合目。このところジャイアンツは逆転劇が多い。とにかく簡単には負けないのが今年のジャイアンツ。

見ると9回裏2アウトの時点で7−6と負けていた。そこでホームランを打ったのがペンス。このホームランで同点になる。10回の表に3点を追加。結局10−7で勝ち。勿論クローザーはロモ。


やはりすばらしいジャイアンツでした。終わりよければ全て良し。