これは父の勘違い。リビングルームは部屋のすぐそばにある。もう一度見に行こうと誘って3階に上がる。ここまで説得するのに一苦労。
個室を見た父は安心して笑い始めた。実は個室は施設の建物の外にあると何故か勘違いしていた、ああ、良かった良かった、これなら是非とも個室に移りたいと言う。
そんな父に腹が立って帰ることにした。10時なのでわいわい広場という父の好きなイベントが始まる時刻でもあるし、取りあえずホームのマネージャーには、個室に移りたいという意向を伝えることにした。
するとマネージャーは今日でも移動できますよ、と言ってくれた。では善は急げ、とわいわい広場が終わる頃もう一度ホームに戻って、荷物を移動することにした。わいわい広場は11時までなので、1時間どこかで時間をつぶさないといけない。思いついたのが近所にある東福寺。JRに乗ればすぐ。行ってみることにした。
いやあ、東福寺ってすごいですね。毎回来るたびに改めて感動する。なにしろどの方向を見ても一幅の絵を見ているようで、写真を撮りまくってしまう。桜は散ったあとなので、全く混んでいない。もう写真を一挙に載せよう。
東福寺を歩いている時にホームのマネージャーから電話があった。取りあえずしばらくは夜だけ個室で寝てみて、父が好きか嫌いかお試しという形にしましょう。もしいやなら、引っ越すのはやめる。もし気に入ったら明日引っ越すことも可能。あるいは夜だけ3階の個室で寝るということをしばらく続けることも可能。引っ越した場合でも、当分は現在使っている父の部屋をそのまま置いておいてくれる、ということ。
本当にこのホームのスタッフは全員が親切で、いつも入居者のことを考えてくれるのがありがたい。1時頃ホームに帰って父にそのことを説明した。父は少し混乱している。が、今晩はお泊まりということを説明して、必要なものだけを準備することにした。
父は手帳、時計、温度計などを延々と袋に詰めている。今日はこのまま2階で過ごし、寝る時は3階の個室で寝る。明日の朝は2階に降りて来て朝食をとる。日中は2階にいましょうということになった。
スタッフが父に聞く。
「今晩は夕食後すぐに3階に行きたいですか。」
父はしばらく考えている。
「それとも夜の10時頃に行きますか。」
父がきっぱり、という感じで答える。
「いえ、9時にします。自分の時間がほしいですから。」
父の新しい部屋はここになりそうだ。