F本さんは18歳ぐらいにしか見えないあどけない顔のスタッフで、看護師さんだったのかどうかはわからない。
吸引を始めようとしたがチューブがうまく入らない。
強引に母の気道にチューブを差しこもうとするF本さんを、私はハラハラしながら見つめた。
母が呼吸できなくなったのがわかった。
母の両手が宙をかく。
『やめてください!!』と私は叫んだ。
びっくりした表情で私を見るF本さんに私は声を上げた。
『息ができないじゃないですか!』
不満そうにチューブを抜いたF本さんが、母を見た途端青ざめた。
母の顔色は紙のように白くなっていた。
呼吸が止まっていたのだ。
F本さんがベルを鳴らし、ガラガラとワゴンを持った数人の看護師、医師が入室して私に廊下で待つように促す。
私はガタガタと震えながら姉に電話した。
母が呼吸をしていない。
母が死ぬ。母が・・・
医者の措置により蘇生した母はもう一度呼吸し始めたが、そのまま集中治療室に運ばれて行った。
その後、主治医が廊下で私に告げた。
母は肺炎の状態になっている、今後は肺炎の治療をしないといけない。
『それは今朝の吸引の失敗が原因なのではないですか。母は回復し始めていましたよね?そろそろ胃瘻の手術をして、療養型病棟のある病院に転院する予定だったではないですか。』と私は言った。
が、主治医は否定した。
『こういうことはよく起きるんです。回復していたと思っていても、なにしろ高齢の方です。突然こういう状態になることもあるんです。』
当然納得できない答えだったが、今ここで議論をしても病院側が認めるわけがない。
0 件のコメント:
新しいコメントは書き込めません。