が、今朝は8時半に家を出てオフィスで教室の鍵、日本語の先生から託されたワークシートなどを受け取る。去年代講した時はワークシートやテストがなかったので、自分で作るのに多大な時間を要した。これを受け取っておくとかなり準備が楽になる。
教室に入り書類を見て青ざめる。日本語4の方は第16課のワークシートやテストが入っているではないか。確か電話で話した時先生は17課と言った。もしかしてこれから2週間教えるのは16課?夕べ友人Oと泣く泣く別れて早く帰宅して予習した17課ではなく?
シーンとした静寂の中で、冷や汗をかきながら初めて見る16課を教えるわけ?などと考えていたら、12月に家庭教師をした時の生徒ジュリーが教室に入って来る。私が代講をすると噂を聞いて挨拶に来てくれたのだということ。でも自分はもう日本語のクラスは取ってないけど、と満面の笑みを浮かべている。12月のジュリーの状態ではパスするのは無理だったが、別に気にもしていないようで安堵する。
まさにこれ |
さて新しい教師が教室にいる時、生徒たちはその教師に少しの好奇心、不安を持つ。それが表情に表れている。特にこのクラスにいる生徒たちには、先生の存在は代講であっても大きな意味を持つ。日本語クラスは大学のクラスなのでダブルクレジット、つまり高校のクラスなら1年2学期で5単位を取得するが、このクラスでは10単位を取得する。
カリフォルニアの高校に通う生徒たちはUCと呼ばれる州立大学を第一希望とする子が多い。これはUniversity of Californiaの略でカリフォルニア大学は10校ある。バークレー、デイビス、サンタクルーズ、サンタバーバラ、リバーサイド、アーバイン、ロサンジェルス、サンディエゴ、マーセドだ(サンフランシスコ校は大学院のみ)。
カリフォルニアの高校に入学すると、オリエンテーションではまずUC入学を目指して何が必要かという説明がある。大学の合格基準は高校で修める成績(GPA)、ボランティアなどでどれだけ地域に貢献したか、高校在学中に何を達成したか、全国共通テストSAT、そして論文だ。特に注目されるのはGPA。UCに合格するにはこれが最低でも3.0必要だ。が、これは大学が定める基本的なラインで、大学によって違うが実際には最低でも3.4以上は必要だ。つまりB平均ではUCに合格できないというのが高校生の共通理解だろう。
ダブルクレジットの日本語クラスでAを取得する、というのは生徒たちにとっては死活問題だ。以前このクラスで学期末、総合79点の成績でC+をつけた生徒が目の前で泣き始めたことがある。これには参った。が、この生徒に取っては未来が剥奪された瞬間だったのだろう。少なくともこの子はそう感じたのだろう。泣きじゃくる生徒を前に途方に暮れたことがある。
生徒がいい成績を取るには、教師の教え方も重要だしそのための日々の努力はかかせない。いかにしてすんなりと新しい文法を導入し、興味を持たせ、今まで学習したことに繋いで行くか。責任は重大だ。
2時限目のクラスには最前列に座っている男子Cがクラウンだ。合方として充分使える。授業は今までの復習から始めた。Te-formだ。行って、見て、食べて、などを使って作文ができるかどうか少しずつ復習する。やはり『て』がまだちゃんと使えない子が多い。クラウンCがTe-formの歌をうたってくれる。クラスの雰囲気はどんどんほぐれていき、皆ちゃんと発言する。よし、このクラスはうまく行くぞ。
3時限目は静かなクラスだ。復習の間も皆シーンとしている。が、見つけた。ニヤニヤ笑いをする男の子Aだ。隣の席のJと仲良しコンビらしい。Aはハンサムで陽気。つまり女の子にモテるタイプだ。Aがニヤニヤしながら発言すると、周囲の女の子がさざめく。よし、このA+Jコンビを使えばクラスに活気が出る。このクラスも大丈夫。
4時限目は問題の2年目クラス。が、このクラスは去年日本語2で教えた生徒ばかりなので、皆が歓迎してくれた。まずは自分の名前を覚えてくれているか、と皆が質問する。実は覚えているのはハンサムで明るいクラスクラウンだったA(こちらも頭文字はA)だけだ。必死で記憶をたぐり寄せるが他の子たちは誰も思い出せない。ハンサムな子を見て嬉しそうにする女生徒と同じレベルか?いやいや、クラウンは記憶に深く刻まれるものなのだ。
あれから1年たったけど皆日本語はかなりできるようになった?自分のレベルを客観的に見て5段階の何か教えてくれる?と5段階を板書する。まず一番下に5と書いた。5 Very wellそして上に向かっていくに従って数字は減って行く。4 Well、3 so-so、 2 badと書いていると、皆が自分は3だ、とか4だ、とか言う。1OMG!と書いたら生徒たちは爆笑した。
こんな感じ |
OMGというのはオーマイゴッドの略で、イメージ的にはこういう感じ。☞このクラスは乗り乗りだ。16課だろうが17課だろうが大丈夫。それにラッキーにも16課は去年の代講で教えた所だ。一度教えているから生徒はどこでつまずくか、もわかっている。授業の進行の仕方はわかっている。
この課では『〜あげます、〜くれます、〜もらいます。』をまず習う。これは例えば『病院に連れて行ってあげます。』というような使い方を教えるのだが、生徒たちの中には『くれます』『もらいます』で混乱する子が多い。だから、『あげます』をじっくり教えたあと『くれます』に移行する。『もらいます』は『あげます、くれます』が完全に理解できてから始めないといけない。
まずこれを見てください、とメアリーさんがお風呂に入っている絵を白板に貼ると男子生徒たちが大喜び。そんなにも幼稚だったか?高校生、とびっくりする。まあ、それもそうだ。この子たちはまだ15歳〜17歳なのだ。
さあ、今日習うのは誰かのために何かをしてあげる時に使う言い方、この場合だと『連れて行ってあげます』ですよ、と使い方を導入する。皆過去1週間を振り返ってください、友人、家族、など周囲の人のために何かをしてあげましたか?と聞いた。数人が答える。それを『〜あげました。』を使って変換させる。他の生徒に今度は三人称で変換させる。
高校生を教えるのはアダルトスクールで社会人を教えるのとは違う喜びがある。高校生はまだまだ子供なのだ。日本語クラスには大学生も数人いるが、大学生と高校生の成熟度の差は大きい。だから幼稚な高校生はかわいい。2週間みっちり教えるぞ!
私的には毎朝こういう気分 |