2013年3月23日土曜日

日本語クラスの生徒たち


火曜日に日本語1のクラス8週間のセッションが終わった。8週間教えると生徒一人一人になんとも言えない絆を感じるようになる。生徒は5人。2人が現役のエンジニア、ダニーさんとアンドルーさん。1人が高校生キット君。1人は退職したエンジニアのピーターさん。あとの1人は主婦ジェーンさん(全員名前はちっとだけ変えてあります)。


火曜日は久しぶりの雨でした

アンドルーさんは台湾人。日本語の発音に苦労している。積み上げて行く学習が苦手のようで、新しく何かを習うと前に習った事を忘れている。日本語2に進む自信がないから、もう一度日本語1を取ろうと思っているということだ。日本人には中国語の発音がむずかしいように、中国語を話す人には日本語がむずかしいというのがよくわかる。アメリカ人という言葉もアメリカチン、と言ってしまう。ジン、と直してあげてもチンと発音する。ガクセイをカクセイと発音するように、濁音は特に混乱するようだ。

ダニーさんとキット君はアニメ好き。姉上、忠臣蔵というような言葉が突然飛び出して来る。この二人は習ったことをたちまち覚えてしまう。ひらがなもすぐ書けるようになった。ダニーさんはルーマニア人だが、彼の書くひらがなはペン字の通信教育でも取ったかのように本当に美しい。

インド人のキット君は自分で日本語はかなり勉強したそうで、誰よりもしゃべることができる。ひらがなを書くと『き』と『ち』が鏡に映ったイメージのように必ず反対になってしまうが。



ジェーンさんはセッション5週目に、授業料を交渉して半額だけ払って入ってきたという強者。この人、一言多いけど悪気のない気のいいアジアのおばちゃん、という感じ。授業の最後に何か質問はありますか、と聞いた私に「センセイ、サンフランシスコのユニクロ知ってますか。今度センセイが行く時に一緒に車に乗せて行ってください。」と言う。

ピーターさんは60代のフランス人。事故が原因の脳障害があるので、発語にちょっと時間がかかる。歩行もぎくしゃくとロボットようだが、性格がすこぶる明るくて場が和む。全てのHを発音しないので、ハウスもアウスと言う。

火曜日のクラスでは月日の表現の仕方を習った。例えば4月20日など日付の特殊な発音の仕方などを含めた練習。生徒一人一人にお誕生日はいつですか、と聞いて日本語で月日を答える練習をする。『お誕生日おめでとう』という言い方も教える。覚えにくければBon Jovi opened the door.と覚えておきなさい、と言ったら生徒たちが笑った。本当にそう聞こえるそうだ。

ピーターさんが突然手を挙げる。他の生徒たちは皆手を挙げずにすぐ発言するが、ピータ
ーさんは律儀で必ず挙手する。「アインシュタインの誕生日がいつだか皆さん知ってますか」と他の生徒たちを見ながら聞く。皆知らない。

では、教えてあげます、とピーターさんが白板まで歩いて行く。その後ろ姿にジェーンさんが「ピーターさん、あんたユダヤ人?ユダヤ人?」と聞く。アンドルーが「ノー、ピーターさんはフランス人」と強く言う。



ピーターさんは白板に3.14と書いて「アインシュタインの誕生日は3月14日です。つまりπです。これで皆さん忘れないでしょ?」と得意そうに言う。ホントホント、πだ、これで忘れないねと皆喜ぶが、ジェーンさんだけが口を開けたままポカンとしている。


次に曜日を教えた。日曜日から土曜日まで何度か練習したが、勿論記憶するには時間がかかる。その時ピーターさんが「センセイ」とまた手を挙げる。「曜日の覚え方を自分なりに研究しました、その結果簡単に覚えられる方法がわかりました、皆さんに披露します。」ということ。白板に来て説明してもらう。


ピーターさんはロボットのように手足をまっすぐに伸ばしたままで歩いて白板に行く。まるでギコギコと音が聞こえてきそうだが、その姿はなんとも楽しい。ローマ字で書いてあるka-youbiを指差す。

「火曜日は『Ka-youbi desu ka』だからkaと覚える。」フムフム。ちょっとわけがわからないと言えばわからないけど、まあいいでしょう。「土曜日は1週間が終わった、つまりdone。doneのdoを取ってDo-youbi。」とピーターさんは、自分の発見はすごいでしょ?というように微笑む。

なんとなく腑に落ちないが、せっかくなので「あ〜、そうですね、うまいうまい、ピーターさん、おもしろいですね。」とほめる。ピーターさんは満足気に笑って「それだけです。」と自分の席に戻ってしまった。

ピーターさん、1週間にはまだあと月、水、木、金、日曜日があるんですけど?