寒そうでかわいそうだったので、誰かを呼びに行く前にシャツを着せてあげた。
ベルを鳴らしたらスタッフと看護師さんが飛んで来てくれた。
看護師さんは心電図を撮る用意をしながら、父を蘇生しようとしてくれた。
父の呼吸音が聞こえる。
「父生きているんですか!」と聞いたが看護師さんは黙ったままだ。
人工呼吸器なのか何なのか、父の喉が音を出しているだけのようだった。
父は蘇生しない。
やっぱりダメなのだろうか。
でも、私も姉もいない時に死んでしまうわけがない。
姉を家に帰らせるんじゃなかった。
父に悪いことをした。
娘どころか、スタッフも看護師さんも、誰一人父のそばにいなかったのだ。
父は最期の瞬間何を考えたのだろうか。
苦しかったのだろうか。
息を大きく吐いたのだろうか。
それとも眠るような穏やかな最期だったのだろうか。
とにかく父に悪いことをした、という後悔ばかりで、父が死んだという実感が湧いてこない。
麻痺した頭で姉にメールを送った。
父が危ない時は電話をする約束だったが、夜中の3時半に電話が鳴るのはやはり不穏すぎる。
すぐ来るという返信があった。
看護師さんが父の蘇生を諦める姿をぼんやりと見つめた。
その時看護師さんが父の足元にあった毛布をめくった。
抑えた悲鳴は自分の喉から出たものだった。
毛布が取られた父の足を見た時、衝撃的な悲しみが襲ってきた。
やっぱり父はまだ死ぬつもりではなかったらしい。