技師の女性は私が持っていたバックを見て、I love your purse.(素敵なバックね)と言う。
アメリカで初対面の人と話す時、こういう始まりが多い。
お医者さんにもI love your necklace.と言われたりする。
この技師さんはしかし話に夢中になり過ぎて、採血している時こぶしを開いてください、というタイミングを忘れたのではないだろうか。
う〜ん、採血の時はこぶしをどこかの時点で開けって言われるよなあ、どこだっけと悩む。
彼女は「そのバック、トリーバーチでしょ?私はトリーバーチの靴を4足持ってるけど、高いよね。でもすごく履き心地がいいから、やっぱり値段と履き心地は比例するよねえ。」などと話が止まらない。
検査が終わる頃には、彼女がフィリピンから21歳の時にアメリカに移住して、看護師になった。
フィリピンで看護師をしていたから、アメリカでもう一度学校に行く必要はないけど、試験は受けないといけない。これは准看護師に関してだけど、正看護師はもっと大変な試験がある。
「Nordstrom(ノードストロム)では時々25%オフになっているよ。」などという情報も教えてくれる。
知っている。
Nordstromは一番好きなお店で週に1度は行くからだ。
というか、お店に通っているのではなく、ここのカフェが好きだからだ。
開放的な明るいカフェで、おしゃれをしている女性を見ながらおいしいコーヒーを飲む。
昨日も友人と行った。
コーヒーを飲んだあと、チラッとバックを見て帰ろうかと言ったのが運の尽き。
マーク・ジェイコブスのバックを見つけてしまった。
飛行機の中で使うのにパーフェクト。
それも半額で88㌦。
マーク・ジェイコブスは日本でも人気があるが、こちらでの正価の5割高ぐらいだ。
今日買ったバックは多分日本では3万円以上するかもしれない。
本当に必要だろうか。
飛行機に乗る時使うバックという理由で、同じようなバックはいくつも持っている。
が、Nordstromの商品には返品期限がない。
10年たっても返せるのだ。
こういうカスタマー・サービスはThe Nordstrom Wayと呼ばれる。
詳しくは知らないが、とにかく何でも返せる。
店員さん(日本人)に以前聞いたところでは、アメリカの女性は友人と一緒にショッピングに来て、いいところを見せるために高いものを買う(人もいる)のだそうだ。
私はそんなことはしないが、それでも返品はよくする。
以前書いたことがあるが、お店の人が「一旦買って帰って、ゆっくりと考えたら?」と、とにかく一度家に持って帰ることを薦めるのだから。
洋服やバックなどはその場で恋しても、家に持った帰って冷静になると恋が冷めることがある。
だから返しに行く。
義姉など、靴を2年履いたあと破れたので返品したということだ。
ズボン丈を仕立て直ししてもったあとでも勿論返品できる。
これがThe Nordstrom Wayなのだから。
こういう返品期限付きのないお店は他にもある。
Coach(コーチ)だ。レシートがあり、まだ売れるようなきれいな状態なら、永久に返品できるとお店の人に言われた。
値札はついていなくてもいい。
Forever(永久)と言う言葉を聞いた時はさすがに驚いた。
さてNordstromに戻るが、前出の日本人店員さんによれば、数年着たあとでThis is not my color.(この色私に似合わないみたい)と返品に来る人もいるそうだ。
週末パーティに着て返品するのは当たり前、という女性も多い。
それでどうやってお店が存続していくのかわからないが、Wikiによると全米で117店あるそうだ。
実は私も一度とんでもない返品をしたことがある。
10年以上も前のことだ。
身体にピッタリした茶色のズボンを買って帰ったのだが、家の鏡で見ると『メタボの岡っ引き』だ。とても不細工なのだが、履き心地が余りにも良い。
半額で70㌦ぐらいだった。ここの洋服は生地が柔らかで高い。
が、お買い得と言えども2年間値札がついたままなのだから、もはやお買い得とは言えないだろう。
そのズボンが目に入るたびに暗い気持ちになる。
ある日ふと考えた。
値札がついているのだ。
返品できるかもしれない。
意を決してNordstromに持って行った。
オドオドと『返品したいんですけど』と言うと、店員さんは別に驚きもせずに、ニコニコとすぐ返金してくれるではないか。
日常茶飯事らしい。
こうして返せると思うから、洋服やバックを買って帰ってしまう。
大半は返さないのだから、当然物が増える。
洋服なんか何枚あっても、卒業式などいざという時着るのはいつも同じもの。
姉が殆ど寝間着にしていたのをもらった。