2014年4月3日木曜日

Code Red

また雨。サンノゼは11月から3月までは雨季だ。今年は歴史的な干ばつなので、山火事が怖い。少しでも雨が降って山を湿らせてほしい。


日本の学校では災害時の避難訓練などがあるし、今は地震や津波被害への意識も高まっていることだろう。アメリカでは地震や火事が起きた時の訓練もあるが、もっと真剣にする訓練が侵入者に対する避難訓練だ。

月曜日の3時限目にこの訓練があった。Code Redと呼ばれる。訓練開始の放送があると教室のドアを全てロックし、カーテンを閉め電気を消す。そしてドアは机や椅子をバリケードに使ってブロックし、生徒はその後机の下などに隠れて静かにする。訓練とはいえドキドキした。

が、生徒たちは勿論嬉しくて嬉しくて仕方ないのだ。勉強する代わりにクラスメイトたちと真っ暗な部屋で、くっついてこそこそおしゃべりができる。この生徒たちがいざ実際にこういう事件に巻き込まれたら、震えながら嗚咽するのだろう。想像しただけでかわいそうで守ってあげたい。とはいえ、生徒をかばって自分の命を投げ出せるだろうか。今ならそうしたいとは思うが、いざ銃を持った人間を目の前にしたらむずかしいのだろう。いや、私はもう死んでもいい年齢なのだ。生徒たちには未来がある。

バリケードを作る生徒たち

以前友人が言っていたことを思い出した。中国に、溺れる者は我が子さえ踏み台にして、自分は水面上に顔を出して助かろうとする、ということわざがあるそうだ。生徒を踏み台にはしないと思うが、それでも自分を犠牲にして助けることができるのだろうか。足が震えてしまいそうだ。それとも、そんな時は咄嗟に生徒をかばえるのだろうか。All Clearという放送があるまでの長い長い時間、暗闇の中で悶々と堂々巡りをしていた。

これはちょっと疲れる訓練だったが、今日はもっと疲れる出来事があった。昨日したクイズを生徒たちに返したのだ。アメリカではクイズと呼ばれる小試験があり、その上で大きなテストが何度かあり、期末テストが一年に2度あるクラスが多い。

日本語クラスでは一課ごとにクイズを2つ、チャプターテストと呼ばれる大きなテスト、そして期末テストがある。昨日は日本語2の生徒たちに20点が満点のクイズをした。勿論皆にいい点を取ってほしいが、どうしても何人かの生徒はしっかり理解できていないようで、低い点数になることがある。

このバリケードは弱過ぎる
と警官に言われました・・
不合格です、はい
その中の一人がクラスクラウンのCだった。Cは利発で明るいが、今日はクイズの自分の点数を見た途端に私の所に来た。間違いがどのように減点されているか教えてほしい、と言う。Cに説明したあとクラス全員にも説明した。助詞などの間違いは減点しない、がこの課で大事なポイントを間違っていたら減点している。

Cが聞く。もう一度クイズを受け直すことはできませんか。『クイズに関しては受け直しはありません。』と私が答えると、激怒したCは突然教室を飛び出して行った。勿論授業中教室を出ることは処分の対象になるし、許されないことだ。アメリカではそういう点はとても厳しい。

息子たちが中学生、高校生の時は学校から理不尽な処分を受けないように、かなり予防線をはることに心を砕いた。例えば次男の携帯電話が盗まれた時、すぐ校長に会いに行った。何故なら盗んだ女生徒Rは次男の携帯を使って、クラスメイトに『殺してやる』というメッセージを送ったからだ。

メールを受け取ったクラスメイトから学校に報告があると、次男が処分を受けることになる。停学ではすまない。退学になるだろう。その時点で携帯は盗まれたと証明するのはむずかしいかもしれない。前もって保身をしておかないといけないのだ。

友人の子は先生に叱られたあと、その先生の乗っている車の写真を撮っている所を見つかり、停学になった。これは文句が言えない処分だろう。叱られたあと先生の車の写真を撮るのは復讐計画と見なされて一種の脅しと捉えられる。

日本語は大学のクラスなのだから、こういう時は教師の裁量で処分は決めてもいい。Cはすぐ教室に戻って来た。クラス中が水を打ったようにし〜んとしている。皆Cの激情に驚いてドキドキしているのだろう。が、こんな時Cをなだめようとしても無駄だ。何もなかったようにふるまうしかない。

今日習ったことを順番に生徒たちに発表させたが、Cは自分の順番が来てもこわばったままの顔で何も言わない。『C、発表しなさい。』と静かに言う。が、Cは無視する。3度ぐらい穏やかに繰り返した。一人の女生徒が"I think he is mad."(怒ってるみたい。)と言う。そんなことはわかっちょる。Cは文の半分ぐらいだけを答えて、あとはまただんまりを決め込む。またクラス全体に緊張感が漂う。クラスクラウンのCはまだまだ成熟していないのだ。子供なのだ。

そういえば8年前に同じ高校で教えた時、カンニングをした女生徒がいた。告発したことで胃が痛くなるような日々が続いた。そのことはまた後日書く。

なんと言うか
今日の方がCode Redだったような