夫も一緒だ。
今回の滞在で父の物を徹底的に片付けたい。
その合間に夫はあちこち観光する。
レールパスも2週間のを買った。
広島の厳島神社や原爆ドーム、姫路城、越後湯沢の温泉、東京、御殿場で富士山、新しい金沢駅など訪問したいところがたくさんあるようだ。
私は夫とは少しだけ一緒に旅行するが、あとは父の世話がメインの毎日になる。
この時期というのは具合が悪くなりやすい頃で、母が亡くなったのも9月下旬だった。
先週は主治医の森先生の診察があった。
以下がその時の様子。
現在は、右耳に一種類のみを使用することでおちついている(以前は昼間用と夜間用と二種類を使い分けていた)。
森先生:問題はあったけど、解決した。よかったですね。
姉:急に機嫌が激変することがある。
さっきまで楽しそうにしていたのに、次の瞬間険しい顔になり、食事をしないとか娘を呼べとかになる。
ただ、長続きはしない。
森先生:前頭葉の問題です。
アクセルとブレーキ。
暴走しがちなアクセルと効きの悪いブレーキ。
様子をみていると自発性は失ってきている。
自分から話そうとしない。
アクセルは大分勢いを失くしている。
喜怒哀楽もアクセルなので、不快なことがあるとアクセルを踏んでしまう。
Mさん(父)は自律神経の問題があり、暑さ寒さでも過敏に反応する傾向があるので、些細な環境の変化でアクセルを踏んで暴走することがありますが、以前ほどの勢いはない。
ブレーキが効きにくくても、しばらくすると治まる。
待てばいいということになります。
姉:マッサージや体操をすれば、暴走しない状態にもっていけるのではないか。
森先生:ツールのひとつにはなるでしょう。
姉:幻覚をみているときはどうしたらよいか。
森先生:幻覚の場合は時間がかかりますが、Mさんの場合は以前のように薬が必要なほど状態がひどくない。
壁になにかいるといえば、壁に手をあてるなどして、いないことを確認して、現実に戻してあげればいい。
父がアルツハイマー病と診断されたのは2010年。
それからよくもちこたえているなあと思う。
ホームに行くと父がかわいそうという気持ちと、イライラして早く帰りたいという気持ちが毎回交錯する。
思い出すだけでいつも涙が止まらなくなる場面がある。
父が3年前に肺炎にかかって入院した時のことだ。
退院はしたものの、自分一人で家に住むのが不安だから病院に戻りたい、とまた入院した父。
この時は認知症病棟に入った。
病棟のドアには鍵がかかり、職員しか開けられないようになっている。
その病院に私は毎日通った。
そして父を連れてよく一階にある売店に行ったり、病院の庭にあるベンチに座って一緒にアイスクリームを食べたものだ。
1時間ほど話したあと父を3階にある病棟に連れて帰る。
別れを告げる時、重いドアに鍵をかける職員の横で、父はじっと私の顔を見つめているのだった。
その時の父の目を忘れることは一生ないと思う。
父の目にあったのは『恨み、恐れ、不安』ではなかった。
そこにあったのは『子への愛』だったのだ。
新聞を逆さまにして読んでいた父
どんな場面にも笑いはある