2013年2月22日金曜日

初級日本語クラス

先週まで近所の高校で3クラス90人の生徒に日本語を教えた。高校でのクラスだが実際は大学生も受講する大学のクラスで進行は速い。1時間目と2時間目はJAPANESE 1を、3時間目はJAPANESE 2を教えた。1年目では60人いる生徒が2年目では半分に減る。1ヶ月足らずの代講だった。

クラスを持つと一人一人の生徒に何とも言えない絆を感じるようになるし、教えること自体は大好きだ。でも、やはり生身の人間に教えるということには、色々なストレスもある。生徒があくびをしているのを見ると焦る。自分でも、今うまく行ってるな、と思う時は生徒たちもよく聞いているが、説明ばかりをして声のトーンが単調になってくると、生徒が椅子から滑り落ちそうになるのが見える。

前日予習をして授業の進行を細かく頭に描いて授業に臨むのに、うまく行かない。そんな時いつも頭の中で聞こえる声が "Abort! Abort!" だ。これは軍事目的などの達成が途中で頓挫したりした場合、使命を中止しろ!という意味で使う。板書していた手を止め、『このマーカーはインクがなくなったから他のに換えないと』などとつぶやきながら、キャップをねじったりして時間を稼ぐ。その間頭の中では、違う形で進行するプランを超高速で考えている。しかし、新しいプランもうまく行かない。冷や汗が出る。授業は失意のうちに終わる。

そんな授業のあとは打ちひしがれて、同じ教師をしている友人YにSMSを送る。『1時間目の授業は大惨事 (;_;)』『大丈夫。自分でそう思ってるだけ。応援してるよ!』とありがたい返信がある。


1時間目と2時間目は同じことを教えるので、どうにか2時間目までにプランを練り直して気持ちを建て直す。1時間目のあとだけは休み時間が16分ある。これは生徒が朝ごはんが食べられるように他の休み時間より10分長い。この16分でうまく行かなかったところをどう直せるか、と必死で考える。

高校の時間割

この16分の間に練り直したプランで2時間目の授業は全く違うものになり、大満足の出来になったりする。生徒たちもいきいきと質問する。

Yといつも話す。にぎやかな生徒がいる方がクラスはうまく進行する、ということを。そういう生徒がいるクラスは生徒たちも質問しやすいし、教師もムード作りがうまく行くことが多い。


JAPANESE 1の方は『げんき 1』という教科書を使う。このクラスでは形容詞の使い方を教えるところから始まった。日本語を教えたのは8年前が初めてだったが、形容詞を教えるまで日本語には『い形容詞』と『な形容詞』があるということは考えたこともなかった。


『い形容詞』は大きい、おいしい、むずかしい、などなど、必ず『い』で終わる。この形容詞は述語として使われる時も名詞を修飾する時も変化しない。かばんは大きいです→大きいかばん、というように。

『な形容詞』はきれい、静か、ひま、きらい、など。この形容詞は述語として使われる時はそのままだが、名詞を修飾するのに使われる時は『な』が必要になる。図書館は静かです→静かな図書館というように。日本人には当然のようにわかっているこの2種類の形容詞がどちらの分類に入るか、生徒は覚えるのが大変だ。例えば語尾が『い』で終わる『きれい』は『い形容詞』ではなく『な形容詞』なのだから。そして『い形容詞』も『な形容詞』も否定形や過去形の変化を覚えるのが生徒たちにはむずかしい。

大きいです、大きかったです、大きくないです、大きくなかったです。
静かです、静かでした、静かじゃないです、静かじゃなかったです。

この変化を記憶するのが一苦労。何度も何度も皆で練習する。日本語はむずかし過ぎる、これを覚えるのは絶対に無理、と悲観的なことを言い始める生徒がいる。そんな時、では『あたたかかった』と皆で言いましょう、と早口言葉ゲームのように練習する。リズムをつけて『あ・た・た・た・た?いやいや、あ・た・た・か・か・っ・た、はい、もう一度!あ・た・た・か・か・っ・た!』生徒たちがドッと笑い、皆乗り始める。つかの間だけどホッとする。

次はどうやって楽しませるか。まるで芸人だな、とため息をつく。