キューティ・ブロンドというちょっとセンスを疑う邦題で公開されたこの映画の中で、恋人に振られたヒロインのことを、ネイルサロンの女たちが笑う。『あんなキューティクルでは絶対に恋人を取り戻せないわよ。』だそうだ。
アメリカでは爪のケアをすることが、最小限の女の身だしなみと考えられているらしい。
が、私は一度もネイルサロンに行ったことがなかった。
爪にお金を使うのはもったいない、というのがその理由だ。
そんな私に友人のY子さんから情報が入る。
日本のスーパー『にじや』に行った時、隣にあるネイルサロンに入ってみた、ペディキュアだけだったが思いの外良かった、$25で簡単なマッサージもついていてオススメ。一度行ってみたら?
う〜ん、私も最小限の身だしなみとして、爪にも気をつけるべきだろうか。
が、手の爪にマニキュアを塗ってもらっても、すぐはげる。ペディキュアだけならしばらくはもちそうだ。$25なら悪くないかも。やってみるか。
だから今日一念発起して行ってみた。
10人ぐらいのベトナム人のネイリストが働いているこのサロンの中で、キムさんが私の担当だ。
キムさんはペディキュア初めての原始人のような私の爪を見て呆れている(ように思える)。
キムさん、なんだかちょっと怖い。面倒くさそうに、足をこのお湯につけて、お湯から出して、膝を曲げて、と言いながら私の足を軽く叩く。英語の問題なのか、汚い足が問題なのか。ムッとした顔をしている(ように思える)。
ペディキュアを塗る前に爪を切ったり、甘皮や薄皮を切ったり、ローションを塗ったり忙しい。
高いところからキムさんを見下ろす椅子に座っている私は、明らかに今まで爪のケアなんかしたこともない。
なのにキムさんをひざまずかせて爪を磨かせる私って、一体何さま?と落ち着かない。
両手は一体どこに置くべき?
腕を組むのは偉そうだし、腿の上に置く?
そわそわと手をあちこちに置いては動かす。
落ち着かないがiPhoneなんか見てはいけないだろう。
目線はどこに向けとくのが妥当?
他の人を見つめるのは失礼だろうし、キムさんの手元を見るのはキムさんを信用してない、と思われるかも。
他の女性はリラックスしてネイリストとしゃべりながら、あるいは隣に座っている友人と談笑している。
なのに私は緊張したまま、じっと宙を見つめ続けた。
30分たってやっと終わる。もう私はヘトヘト。
サロンを一刻も早く出て家に帰ってリラックスしたい。
「靴を履いていいですか?」と聞いた途端、周囲の女性のおしゃべりの声が突然止む。
3人の女性が私を振り返って注目する。
明らかにバカな質問をしたようだ。
靴は1時間は履かないように、とキムさんに説明されてピンクの紙の草履をもらって歩く。
家に帰った時はもうクタクタになっていた。
ペディキュア初体験はかくも疲れる体験だったのだ。
でも、なんていうか気持ちいい。
私も今日からちゃんと爪に気を使うおしゃれな女?
と気持ちだけは『素敵な私・おしゃれな私』になっている。
あの『居心地悪過ぎ』ストレスも価値はあったかも。
Y子さんから「どうだった?(茄子紺の)色はイメージ通りだった?無事家までキープできた?」とメッセージが入る。
写真送ってね〜、だって。
そうか。ペディキュアはサロンで終わるわけではないのか。家までちゃんとキープしないといけないのか、そりゃそうだな。
アップで写真を撮ってみた。