2018年2月26日月曜日

有楽町

父の本を数冊アメリカに持って帰ってきたのだが、今日その中の一冊を読み始めた。


姜尚中の『悩む力』



読み進めていくと紙切れがはさんであるのに気がついた。



父が昭和1980年の8月に書いたメモだ。この本は2009年7月に印刷されたものだから、父の認知症が始まっていることに私が気がつく少し前のものだ。



何かのタイミングでこのメモが数十年後にはさまれたのかもしれないが、見ると悲しみが襲ってきた。




これは私が最初に英語を習うためにサンノゼ大学に留学(遊学?)したあと、また違う学校に通っていた頃のメモで、父がいつ私の学費や生活費を送金するかという計画を書き付けたものだ。



私が能天気にアメリカで遊びながら生活していた時、父はどうやってお金を捻出するか悩んでいたのだろう。



当時は1ドルが227円だった時だ。



ドルが185円から260円まで変動することを想定して計算してあった。



父は不安だったのだろう。



9ヶ月だけアメリカに留学すると言って日本を出た私が、いつまでたっても帰ってこない。






このメモを父が書いた少しあとに、一時帰国した私は父と有楽町で待ち合わせたのだった。



どんな用事があって有楽町にいたのかはもう思い出せない。



が、その時の会話をはっきり覚えている。



その数ヶ月前にアメリカで初めてパーマをかけた私は、チリチリのアフロヘアにされて悩んでいたのだ。



父は有楽町の駅前で私に言った。



『銀座に行ってカツラを買おう。』


有楽町駅、ここに立つと私と父の姿がいつも見える




結局カツラは買わず、うどんを一緒に食べたあと別れた。




有楽町の駅前に立つ時いつもあの日の父と私を思い出す。



あの数日前に、父は私に会ったらお金の話をしようと思ったのだろう。



費用を捻出するのが難しい。



一体いつ日本に帰ってくるんだ?



と言うつもりだったのかもしれない。





が、父は言わなかった。



私の顔を見ると言えなくなったのだろう。



アメリカをエンジョイしている娘。



どうにかしてもうちょっとアメリカにいさせてやろう、と思ったのかもしれない。






父に対する申し訳ない思いと、父の愛を感じて涙が止まらなくなってしまった。


東京滞在費5万円と書いてある




そうだ。私も自分が死んだあと息子たちに私を思い出してもらうために、一冊の本にメモをはさんでおこう。



息子たちが母を思慕して涙するのは一体どんなメモなのだろうか。




が、問題があることに気がついた。

彼らは本を読まない

8 件のコメント:

  1. 親の心子知らずですね。
    うちの息子達も今そんな感じです。
    今思えば私もそうでした。

    昔母に言われた事があります。
    親なれば分かると。
    確かに親になってその時の親の気持ちが分かります。でも子供達が親になったら分かるかと言うと、それはちょっと疑問です。
    うちも本は読まないし。。。

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    1. みーさん、
      私も親になってからやっと親の気持ちがわかったし、年をとるにつれて老親の子供に対する気持ちもちょっとずつわかるようになりました。
      次男は感情的で高校時代は苦労させられましたが、大学生になり家を離れた21歳の時コロッと変わりましたよ。でも最初はその変貌ぶりが信じられなくて、これはひとときの夢なんだ、と自分に言い聞かせていました^^それがそのまま落ち着きましたよ。
      だから、今はそのことを次男に事あるごとに言ってます。今は息子を持って親がどんなに子供を心配するかわかったでしょ?あ〜、私も苦労させられたなあ、って。うんうんと頷いていますが、まだまだわからんだろうという感じ。

      みーさんの息子さんたちも大丈夫ですよ。いつか大人になる日が来ますよ。
      私も次は長男が子供を持ったら、親のテキストメッセージにもちゃんと返事をするようになることを期待していますが〜^^;

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  2. 両親の心労も考えずに遊び惚けていた私は、読んでて苦しくなりました。いまだに考えたくなくて思わないようにしてます。いつかしっかり自分と向き合って後悔の洪水を泳がなくてはならないと思っています。
    私は自分の母ほど自分の娘に尽くしていないのであまり期待していません。元気で幸せで暮らしてくれたらと願っています。

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    1. 美知子さん、
      子供を育ててみて確信したことは、子供がどんな仕打ちを親にしても親は子供を恨まないということです。
      もちろん中には例外もあるでしょうが、やはり私は親が私や姉を一瞬たりとも恨まなかっただろうなと思います。
      美知子さんのご両親もそうだったはずです。だって、こうやって思い出して後悔していることこそ、親への愛から来ているのだから、親はそれだけで幸せなのではないかなと思います。
      そう、子供には期待しない、それに限りますよね。子供が何かしてくれたら儲けもん、と考えるようにします。
      寂しいけど・・・^^

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  3. こんにちは。お父様のメモ書きで涙がとまらなくなるお気持ちよくわかります。子供を思う親の気持ちは、だんだんと経験を通して理解できることもありますね。息子さんたちは、本を読まないということですが、きっとこちらのブログをいつか読まれる日が来るのだろうと思います。そしたら、今度は息子さんたちが母心を少しは理解できるようになるのではと。

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    1. Kayさん、
      こんにちは。Kayさんも同じように思われましたか。
      上野千鶴子教授の『今、親に聞いておくべきこと』という本を買って、母には色々聞いて書き付けておいたのですが父にはあまり聞きませんでした。父とはいつも電話で話したり会話も多かったのですが、系統だった話の聞き方をしていません。これが少し後悔していることです。

      息子たちがいつか私のブログを読むことがあったとしたら、母がどんなに食いしん坊だったかということしか印象に残りそうにないですね〜😅

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  4. mikimieさん、メモに目がしらが熱くなり、、、そして、最後のオチ、もうさいっこう!、夜中に爆笑の巻でした、(^O^)

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    1. きぬえさん、
      ありがとうございます〜。
      私ももっと何かメモを残しておかないと、ですね。
      息子を号泣させる言葉、何かないかな〜。

      うちの男たちは本をほとんど読まないです。
      特に夫が本を読んでいるのは一度も見たことがないです^^;

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